SFが好きだった。中学生の頃は『スタートレック』のテレビシリーズが放映されていて、高校生のときに『スターウォーズ』のエピソードWが公開された。大学二年のときにエピソードXをロードショーで見た。その頃、1980年頃は、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』なんぞは、伝説的な映画になっていて、どこの名画座でも見ることができなかった。ようやくビデオデッキが普及し始めたかぐらいの時代で、まだまだ旧作映画は名画座が本命、目当ての旧作が上映されると、「ぴあ」を片手に電車を乗り継いでわざわざ出かけたりした。
アンドレイ・タルコフスキーの『惑星ソラリス』は、記憶が正しければ吉祥寺で見たと思う。これはスタニスワフ・レムの原作もハヤカワ文庫で読んだ。ジョージ・ルーカスの『THX1138』は、深夜にテレビで放映されたのを、固唾を飲んで見た。
そんなことをしている時期に前後して、自分でもその手の話が書きたくなり、ただし、レムのようなハードSFが書けるほどの学識もなく、かといって、あまりにファンタジー系の話も好みではなかったので、漫画のシナリオのような形式で試しに何本か作ってみた。もはやその原稿が消滅してしまったのが、今では半ばありがたい。さすがに読み返す勇気はもはやないのだ。
で、いくつか怪しげなものを書いてみた結果として、当時はストーリー構造の面白い作品をものにしたいと思っていたはずだったのだが、今になってみると、どうも書きたかったのは別のことじゃないかという気がしている。おかしなものだ。
処女作なんていうのも馬鹿げているけれど、最初に作った話の舞台は、巨大な宇宙船だった。スペースオペラなら、これが戦闘用の宇宙戦艦や宇宙巡洋艦、深刻なハードSFなら惑星探査船や物資の輸送船、軌道上のうら寂れたステーションあたりというのが大体の相場だろう。それと違うのをあえて狙ったというわけではないが、私の書いた話では、船は、移民船だった。
街がひとつ入るくらいのうすらでかい船に、何万人かが乗って一回目の移民の航海を終え、その帰路の船内で話が進行する、という筋立てだった。移民はすでに降ろしたあとだから、船内は伽藍どうで、ごく少人数の回航要員が乗り組んでいるだけである。船は数回の航海の後、遠い星に完全に着地して、その開拓地の拠点のひとつになり、いくつかの機能を果たしてゆくことを想定して建造されているのであるが、そのなかに有史以来、人間の作りあげたあらゆる書物や音響や画像等々を保管し、公開し、レファレンスするという機能が含まれていた。そのために、船には情報の古文書館(アルヒーフ)とでも呼ぶような区画が設けられている。話はそこから始まる。ま、でも内容は勘弁してもらおう。
なんで移民船だったのだろうかと考えると、思い当たる節がないでもない。近い親戚に戦前にブラジルに渡った人がいたし、その人のくれた縁で、そういうSFまがいのものを書いていた10年ほど後に、私もブラジルの日系二世三世の親戚を尋ねることになった。そして根拠は別にないのだが、暗く、誰もいない、しかしやたらと広い伽藍のなかのどこかで、その昔に人の手や耳や魂が作り上げたものがひっそり息づいているというのが、私の記憶のどこかに痕跡を残しているコードのひとつなのかもしれない。
そういうわけで、「移民宇宙船のアルヒーフ」は、特にSFの話というわけではないのだけれど、よろしかったら、どうぞご入館を。ぼちぼち気長に、私的思い入れのあるものを目録的に公開させていただく予定であります。